新しい働き方として、「副業・兼業」がメディアなどで大きく取り上げられています。厚生労働省でも「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表するなど、国としても積極的に推進しているところであり、令和時代の働き方の一つとして、今後さらに定着していくことが予想されます。
本記事では、「副業・兼業」とひとくくりにされることが多い「副業」と「兼業」という言葉の定義と、両者の定義の違いを整理します。
辞書の定義
まず、広辞苑及び明鏡国語辞典での定義は以下の通りです。
ふく-ぎょう【副業】
本業のほかにする仕事。内職。「―に精を出す」けん‐ぎょう【兼業】
新村出『広辞苑 第七版』
本業のほかに他の業務を兼ねること。また、その業務。副業。
ふく-ぎょう【副業】
本業のかたわらにする仕事。「━として民宿を始める」けん‐ぎょう【兼業】
北原保雄『明鏡国語辞典 第三版』
本業のほかに別の事業・仕事を兼ねて行うこと。また、その事業・仕事。
上記の定義では、副業・兼業ともに、「本業のほかに」「本業のかたわらに」する仕事という点で共通しています。
兼業については、他の業務・仕事を「兼ねる」という点が共通しており、副業の定義と微妙に差があるものの、「本業以外の仕事を別に行う」という意味合いにおいてはほぼ同義であると考えられます。
また、広辞苑においては、兼業の説明に「副業」とあり、同義であることが示されています。
上記を踏まえると、「副業」と「兼業」の辞書的な意味合いとしては、微細な定義の違いがあるものの、実質的にはほぼ同じであるといえます。
国・政府による定義
続いて、国・政府による定義について、いくつかの行政文書を参照しながら確認します。
「副業・兼業」の推進のきっかけともいえる行政文書としては、2017年の「働き方改革実行計画」(働き方改革実現会議)が挙げられます。また、同計画をもとに、2018年には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」「モデル就業規則」がそれぞれ作成・改定されました。
「働き方改革実行計画」「副業・兼業の促進に関するガイドライン」「モデル就業規則」では、「副業」「兼業」という言葉が複数回登場していますが、いずれの文書でも明確な「副業」「兼業」に関する定義は見られず、使い分けも確認できません。特に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、文書中に計110回「副業」「兼業」という単語が出てきますが、すべて「副業・兼業」という形でひとくくりとされており、両者は全く使い分けられていないことがわかります。
また、働き方改革関連法を含む各種の労働法においても、直接的に「副業」「兼業」を定義しているものはありません。
上記の通り、「副業」「兼業」に法的な定義はなく、かつ、国・政府としては、両者を使い分けず、「副業・兼業」というひとくくりの言葉として表現する方針であることがうかがえます。
なお、国の行政機関が実施・公表している調査の中には、以下の通り、「副業」「兼業」を定義しているものがあります。
兼業・副業とは、一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事を指す
中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課、経済産業政策局産業人材政策室「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言 ~パラレルキャリア・ジャパンを目指して~」(2017年)
副業
総務省「平成29年就業構造基本調査 用語の解説」(2017年)
主な仕事以外に就いている仕事をいう。
以上2つの調査は、必ずしも国や政府の見解を結論付けるものではないですが、少なくとも、副業及び兼業は「主な仕事(本業)以外の仕事」という意味であり、かつ「副業」「兼業」を使い分けていないということが確認できるかと思います。
一般的な認識
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2017年に実施した個人向けのアンケート調査では、「兼業」と「副業」それぞれの活動に対して、抱かれているイメージが異なるということが示されています。
「兼業」は、平日の勤務時間内に実施し、本業とも関係し、競合する可能性もあるイメージが多いのに対して、「副業」は、平日の勤務時間外や休日に実施し、本業とは直接的な関係はなく、本業にも生かせない内容というイメージが多い。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「本業先以外での就業機会の普及はいかに可能か」(2017)
上記を踏まえると、一般的な認識としては、「副業」「兼業」それぞれに対して以下のような認識の違いがあるといえます。
副業:本業と関係のない仕事、本業を中核に据えつつ空き時間に行う仕事
兼業:本業と関係のある仕事、本業と並列に・同等の水準で行う仕事
ただし、上記はアンケート結果から見える個人の認識の傾向に過ぎず、公式なものではないので、ご留意ください。
定義上の論点
ここまで、各出典を参考にしつつ、「副業」「兼業」の基本的な定義を確認してきましたが、さらなる深掘りとして、「副業・兼業」の定義上、論点となりうるポイントを2点確認したいと思います。
収入の有無
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、「副業・兼業を行う理由は、収入を増やしたい、・・」と記載されていたり、副業・兼業のメリットとして「所得が増加する。」が挙げられていたりなど、副業・兼業には収入があることを前提とした記載が多数みられます。
収入がない場合は副業・兼業にあたらない、と明言はできませんが、一般的には、個人としてあるいは組織に所属して行っている収入のない活動は、「趣味」「ボランティア」と表現するほうが適切であり、また、収入がない場合にはそもそも「副業禁止」「副業解禁」などの論点も生じえないことから、原則として、「副業・兼業」=「収入を伴う本業以外の仕事」と理解すべきと考えられます。
雇用契約の有無
同じく「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、「副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等さまざまである。」との記載があります。この通り、使用者との雇用契約が発生しない「会社役員」「自営業主」が副業・兼業に含まれていることから、国・政府の考え方に沿えば、雇用契約の有無は、副業・兼業の該当性に影響を与えない、すなわち、雇用契約がなくても副業・兼業にあたる場合がある、と考えられます。
まとめ
以上の通り、「副業」「兼業」は、法的な定義はないものの、一般的には「収入を伴う本業以外の仕事」と理解されています。また、「副業」「兼業」は使い分けられておらず、「副業・兼業」とひとくくりにして表現されることが多いです。
個人で副業・兼業を行う場合や、会社内で従業員の副業・兼業の該当性を判断するような場面において、本記事の内容をぜひ参考にしていただければと思います。