「副業・兼業」の禁止・制約の状況

近年、働き方改革の流れの中で、新しいワークスタイルとして「副業・兼業」が話題になっています。
一方で、数年前までは日本政府として「副業・兼業」を推進しておらず、また、副業・兼業を未だに禁止している企業も多くあります。

本記事では、そのような「副業・兼業」に対する禁止・制約の状況について整理しています。

なお、「副業・兼業」の定義について、別の記事にまとめています。関心のある方は以下のリンクからご確認ください。

本記事のまとめ
  • 2021年1月時点で、副業・兼業を直接制約する法令はない(ただし、労働基準法・労働契約法等の一部規定に副業・兼業が関連・抵触する場合はある)。
  • 働き方改革の一連の流れの中で、国・政府は、副業・兼業は原則として容認されるという見解を表明する(2018年以降)。
  • 2018年の「モデル就業規則」改定や「副業・兼業の促進に関するガイドライン」公表を通して、国・政府が企業による副業・兼業の解禁を促している。

副業・兼業への規制・制限の在り方の整理

まず初めに、そもそも副業・兼業の規制・制限とは、誰に、どのような形で行われるのかを整理します。

個人の副業・兼業に対しての制約は、大きく分けて以下の2つが考えられます

  1. 国・政府が、企業又は個人に対して、法令により、副業・兼業の実施を規制する。
  2. 企業が、従業員に対して、労働契約・就業規則により、副業・兼業の実施を制限する。

上記2つは、企業や個人が法令や契約に拘束されることとなります。法令に反した場合には国による制裁や是正のための介入が行われる可能性があり、契約に反した場合には企業による懲戒の可能性が生じます。

また、司法(裁判所)が、副業・兼業に関する裁判例を出すことがあります。この場合は、企業や個人を直接拘束することにはならないものの、特に最高裁判所による判例の場合には、その後の行政判断や企業の取組に大きな影響を与えるものであるため、副業・兼業の制約を考える際には押さえておく必要があります。

上記を前提に、以下では、国・政府による副業・兼業への規制の在り方・考え方を確認したいと思います。

国・政府による副業・兼業に対する規制の変遷

十数年前までの日本では、そもそも終身雇用・年功序列の日本型雇用が基本とされており、「副業・兼業」に関しての議論がそれほど活発ではありませんでした。また、モデル就業規則においても、労働者の遵守事項の一つに「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という記載がありました。これは、原則として副業・兼業は禁止であるという国・政府としてのスタンスを示すものであったといえます。
副業・兼業についての行政による規制の在り方が大きく変わったのは、一連の働き方改革の流れとなります。2010年以降、長時間労働や非正規雇用の増加と待遇格差などの問題が各所で取り上げられるようになり、2016年9月に官邸主導の「働き方改革実現会議」の設置を皮切りに、一連の働き方改革が推進されました。
働き方改革や副業・兼業に関する政府・厚生労働省の動きは以下の通りです。

2016年6月「ニッポン一億総活躍プラン」「一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である働き方改革の方向」として、非正規雇用の待遇改善、長時間労働の是正、高齢者の就労促進を掲げる。
2016年9月~2017年3月「働き方改革実現会議」開催(内閣総理大臣の私的諮問機関)副業・兼業を含めた働き方改革に関して審議。計10回開催。
2017年3月28日「働き方改革実行計画」公表(働き方改革実現会議)「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定」の項目に、「合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化する」ことが明記される。
2018年1月「モデル就業規則」改定(厚生労働省)「副業・兼業」に関する規定を追加し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」としたうえで、例外的な禁止・制限事由を列挙。
2018年1月「副業・兼業の促進に関するガイドライン」公表(厚生労働省)副業・兼業の現状や、企業・労働者の対応、その他関連制度について記載。特に、企業向けに「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。」と明記。
2018年7月6日「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」成立(副業・兼業に関する規定はなし。)
2020年9月「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定(厚生労働省)副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてのルールを明確化。
2020年11月「モデル就業規則」改定(厚生労働省)副業・兼業の開設を追加。

2021年1月時点において、副業・兼業に直接触れるような法令ありませんが、上記の通り、2018年から副業・兼業については様々な動きがありました。

次の章からは、上記の中でも特に着目すべきである「モデル就業規則」「副業・兼業の促進に関するガイドライン」について確認します。

モデル就業規則

モデル就業規則とは、最新の労働関係の法令を踏まえて作成された就業規則の例となります。
あくまでもモデルである為、モデル就業規則には法的拘束力はなく、各企業は自社・事業場の状況を踏まえて別途就業規則を作成することにはなりますが、現在の労働法制との抵触がない、政府として推奨する就業規則となっています。

モデル就業規則は、2010年10月に初めて公表され、その後、労働関係法の改正等のタイミングに何度か改定されています。
2018年1月の改定版において、働き方改革を踏まえて以下の「副業・兼業」に関する規定が追加されました。

(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
 ① 労務提供上の支障がある場合
 ② 企業秘密が漏洩する場合
 ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
 ④ 競業により、企業の利益を害する場合

厚生労働省「モデル就業規則」

上記内容を要約すると、以下の通りとなります。

  • 労働者による副業・兼業(他の会社等の業務への従事)は原則として許可されている。
  • 副業・兼業を行う場合には、企業に対して(事前の)届出が必要。
  • 企業が不利益を被る事由がある場合には、(例外的に)副業・兼業を禁止・制限できる。
    • 禁止・制限事由としては上述の通り4つ挙げられている。これらは、いずれも副業・兼業を認めることで企業が不利益を被る場合を類型化したものであるといえる。

モデル就業規則には、厚生労働省による細かな解説が掲載されているため、関心がある方は合わせてご確認ください。

厚生労働省「モデル就業規則」

副業・兼業の促進に関するガイドライン

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、上述の通り、2018年1月に作成され、その後2020年9月に改定されています。
同ガイドラインは、「副業・兼業を希望する者が年々増加傾向にある中、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について示したものである。」とされています。
ガイドラインも、モデル就業規則と同様に、いわゆる「法令」にあたらず、企業や個人に対しての法的拘束力はありませんが、現在の労働法制との抵触がない、政府として推奨するものとなっています。

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

内容については割愛しますが、「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。」としたうえで、副業・兼業を容認する場合に生じうる以下の観点についての解説が述べられています。

  • 労働契約法上の論点(安全配慮義務、秘密保持義務、競業禁止義務)
  • 労働時間の管理(副業・兼業により労働時間が増加することで、労基法上の労働時間規制に抵触し、使用者側に責任が生じる可能性が生じる為)
    労働者の健康管理(労働安全衛生法上の使用者による健康管理と副業・兼業との関係性の整理)
  • 各種保険(労災保険、雇用保険等)

さいごに

働き方改革の流れの中で、国・政府は、副業・兼業の解禁を明確に打ち出しており、企業による副業・兼業解禁を推進するための一連の環境整備はなされた状態であるといえます。
一方で、他の調査では、副業・兼業の解禁状況は未だ途上であることが指摘されているなど、十分に社会に浸透しているとは言い難い状況となっています。

今後は、国・政府の動きに合わせて、企業側も副業・兼業を容認していくことが予測されます。
副業・兼業を考えている方は、企業側の就業規則などを参照し、副業・兼業は容認されているのか、どのような制限があるのか、といったことをぜひ確認してみてください。

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